
見晴らしのよい広い敷地に家を建てるとき、意外と難しいのが「どこに向かって開くか」を決めることです。どの方向にも景色がある敷地では、すべてに大きな窓を設けたくなりますが、そうすると家の中に落ち着ける場所がなくなってしまいます。
今回ご紹介するのは、那須の自然に囲まれた見晴らしのよい敷地に計画した、延床35.93坪の2階建てです。将来は酪農を継いでいくことを見据えた住まいで、敷地のすぐ近くにはご実家があります。
テーマは「ひらける暮らし、こもれる居場所」。各方向に景色が抜けるLDKと吹き抜けで開放感をつくりながら、床を40cm下げたタタミコーナーで、家族が身を寄せられる居場所を重ねています。この記事では、開くところと囲うところをどう配分したのかを解説します。
この間取りの前提条件
- 所在地:那須(見晴らしのよい広い敷地、一部に傾斜あり)
- 敷地条件:北西道路、北東側にご実家
- 暮らしの前提:将来、酪農を継いでいくことを見据える
- 階数:2階建て
- 間取り:2LDK(将来3LDK)+タタミコーナー
- 延床面積:35.93坪
- 1階:LDK21帖、タタミコーナー4帖(床を40cm下げる)、パントリー3帖、寝室6帖、WIC3帖、シューズクローク2.5帖、ランドリー3帖、浴室(1616サイズ)、洗面、トイレ
- 2階:洋室12帖(用途に合わせて間仕切り位置を決められる)、トイレ、吹き抜け
- 外部:タイルデッキまたはウッドデッキ、外水道、駐車スペース2台
寝室や水廻りなど日常生活に必要な空間を1階にまとめ、2階には将来分けられる12帖の洋室を置いています。2階を子ども部屋のための「予備の床」として持っておき、家族構成が決まってから使い方を決められる構成です。
見晴らしのよい敷地で「開く方向」を選ぶ
図面には、建物の周囲のあちこちに「ロケーション」と書いた矢印を描いています。LDKやタタミコーナー、寝室、2階の洋室など、それぞれの部屋から景色が抜ける方向を確認しながら窓の位置を決めているためです。
一方で、道路と駐車スペースがある側には「なるべく外からの視線は入りにくいように」という書き込みがあります。見晴らしがよいということは、裏を返せば外からも見えやすいということです。道路側は窓を絞り、景色のよい方向には大きく開く。全方向を均等に開くのではなく、方向ごとに開き方を変えています。
もう一つ特徴的なのが、ご実家との関係です。図面には「実家から目視で出掛けているか分かる」と書き込んでいます。広い敷地ではお互いの家が離れがちですが、ちょうどよい距離で互いの気配が伝わることを、配置を考えるうえでの条件の一つにしています。将来、家業を一緒に担っていくご家族にとって、互いの動きが自然に分かることは、暮らしの安心にもつながります。
北風対策で奥まらせた玄関とシューズクローク
玄関は、建物の外壁から一段奥まった位置にドアを設けています。図面に「北風対策で玄関ドアを奥まらせる」とある通り、冬の冷たい風がドアに直接吹きつけにくくするための工夫です。寒さの厳しい地域では、玄関ドアを開けた瞬間に風が吹き込むかどうかで、玄関まわりの寒さの感じ方が変わります。玄関の脇には植栽を配置し、風よけと目隠しを兼ねています。
玄関を入ると、2.5帖のシューズクロークと下足入れがあります。シューズクロークは斜めの壁で仕切られた形で、玄関土間から直接入れるようにしています。長靴や作業着、アウトドア用品など、外で使う物が多い暮らしでは、玄関にしまう場所があるかどうかで室内の散らかりやすさが大きく変わります。
玄関ホールの先には、トイレ、WIC3帖、寝室6帖が並び、LDKへはホールから直接入ります。帰宅後に上着をWICへ、手洗いはすぐ先の洗面へ、という動きが短い距離にまとまっています。
景色に開く21帖のLDKと吹き抜け

LDKは21帖です。北側の壁に沿ってコンロのある壁付けカウンターを設け、その手前にシンクを備えたアイランドを置き、さらにダイニングテーブルをアイランドに横づけしています。壁付けカウンターの一部にはスツールが2脚描かれており、窓に向かって座れるカウンター席としても使える計画です。キッチンの奥には3帖のパントリーがあり、食品のストックをまとめておけます。
リビングの上部は吹き抜けとし、化粧梁を渡しています。内観パースのように、梁が空間にリズムをつくり、吹き抜けの高さをより感じやすくしています。南側には大きな窓を並べ、外のデッキと景色へ視線が抜ける構成です。
階段は、リビングの奥にスケルトン階段を設けています。段板の間から光と視線が抜けるため、LDKの中に階段があっても圧迫感が出にくい形式です。リビング内に階段があることで、2階の洋室を子ども部屋として使うようになった時期にも、家族が顔を合わせてから2階へ上がる流れが生まれます。
ただし、吹き抜けとリビング階段は、暖かい空気が上へ逃げやすい組み合わせです。寒冷地での計画では、断熱・気密性能を確保したうえで、暖房機器の種類や位置、吹き抜け上部の窓の性能まで一体で検討する必要があります。料理のにおいや音が2階へ伝わりやすい点も、事前に理解しておきたいポイントです。
40cm下げたタタミコーナーという「こもれる居場所」

この住まいの「こもれる」場所が、LDKの東側に設けた4帖のタタミコーナーです。リビングの床を±0として、タタミコーナーの床を−400、つまり40cm下げています。
床を下げると、天井の高さが同じならタタミコーナーでは天井までの高さが40cm分大きくなり、一方でリビングから見ると一段沈んだ「くぼみ」になります。周囲を床の段差に囲まれることで、壁で仕切らなくても領域が分かれ、ごろりと横になったときに守られている感覚が生まれます。リビング側から見ると、段差の縁は腰掛けとしても使える高さです。
タタミコーナーは、くつろぎの場所であり、子どもの遊び場であり、学び場でもあります。内観パースに描いたように、壁際にはデスクカウンターを設けており、宿題や読書をする場所として使えます。キッチンからも近く、家事をしながら子どもの様子を見守れる位置です。東側には窓があり、タタミコーナーからも外の景色を感じられます。

床を下げるときに必要な検討
断面図では、タタミコーナー部分の基礎を下げ、基礎の立ち上がりに断熱を施す「基礎立上がり断熱」と記載しています。床を部分的に下げる場合、床下で断熱をする方法では下げた部分の納まりが複雑になりやすく、基礎側で断熱ラインをつくる方法は、段差部分の断熱を連続させやすい方法の一つです。
一方で、40cmの段差は小さなお子様や高齢の方にとってつまずきや転落の原因にもなります。段差の位置が分かりやすいよう照明や床材の色を変える、手をつける場所を設けるなど、安全面の配慮が必要です。また、基礎の形状が複雑になる分、工事費や工期に影響する場合があります。
外と行き来しやすい水廻りとデッキ

LDKの南側、洗面と階段の間には、タイルデッキまたはウッドデッキを計画しています(仕上げは検討段階のため、図面では両方を併記しています)。デッキの脇には外水道を設け、デッキから廊下へ直接出入りできるようにしています。図面ではこの出入口を「外↔内の動線」と書いています。
出入口を入ってすぐの場所に洗面があり、その先にランドリー3帖と浴室が続きます。外で汚れて帰ってきたときに、玄関を通らず、LDKを横切らずに、手を洗い、汚れた服を洗濯機へ入れ、そのまま浴室へ向かえる順路です。将来酪農を継いでいくことを考えると、こうした「外から水廻りへ直行できる動線」は、日々の暮らしの負担を減らすうえで役立ちます。
ランドリーには洗濯機と作業カウンターを描いており、洗う・干す・たたむを一室で行える広さです。寝室とWICもランドリーの近くにあるため、乾いた衣類をしまう移動も短くなります。洗面は脱衣室とは別に廊下側に独立させているので、誰かが入浴中でも手洗いや身支度に使えます。
2階は将来に備えた12帖の洋室
2階には12帖の洋室とトイレを設け、残りは吹き抜けとしています。洋室には「用途によって間仕切り位置を決められる」と書き込んでおり、左右両側の壁に窓を設けているため、将来2室に分けた場合も、それぞれの部屋に窓が残る配置です。
お子様が小さいうちは広い一室として、遊び場や家族の多目的室に使えます。個室が必要になったら間仕切り壁を設けて3LDKへ。2階にもトイレがあるので、子ども部屋として使う時期になっても、夜中に1階まで降りる必要がありません。
なお、2階の洋室は吹き抜けに面した廊下を通ってアクセスします。吹き抜けを介して1階のLDKと声が届く距離感になる一方、音や光が伝わりやすいため、子ども部屋として使う時期には、扉の仕様や配置にも配慮が必要です。
ガルバリウム鋼板と塗り壁の外観
外観パースは、ご実家のある北東側と、道路のある北西側の2面を描いています。外壁は縦張りのガルバリウム鋼板を基本とし、一部を塗り壁としています。2階部分は片流れの屋根で、平屋部分の上に箱が載るような構成です。
ご実家側の外観は窓を小さく絞り、落ち着いた印象にしています。景色に開く側と閉じる側を外観でもはっきり分けることで、室内の「ひらける」と「こもれる」の対比が、外から見たときの表情にも表れています。
注意点・デメリット
吹き抜けとリビング階段は温熱計画が重要
寒さの厳しい地域では、吹き抜けとリビング階段による暖気の上昇が快適性に大きく影響します。断熱・気密性能、暖房方式、窓の性能をセットで検討することが前提になります。
段差のある床は将来の暮らし方も考える
40cm下げたタタミコーナーは居心地がよい一方、年齢を重ねたときの上り下りの負担にもなります。手すりや腰掛けとして使える縁など、長く使うための工夫が必要です。
窓が多い分、日射と断熱のバランスが必要
景色を取り込むために窓を多く設けると、冬の熱損失や夏の日射の影響を受けやすくなります。窓の大きさと性能、庇や外付けの日除けなどを、方位ごとに検討することが大切です。
2階の洋室は分割後の広さに限りがある
12帖を2室に分けると1室あたり約6帖になります。収納を各室に設けるか、1階のWICなどにまとめるかで、使える広さが変わります。
似た条件で考えられるアレンジ案
タタミコーナーを段差なしで計画する
床を下げずにタタミコーナーを設ければ、基礎の形状がシンプルになり、段差の心配もなくなります。その代わり、床の高さの違いで生まれる「くぼみ」の居心地は弱くなるため、天井を低くする、壁で三方を囲うといった別の方法で囲まれ感をつくる工夫が必要です。
平屋として計画する
敷地が広い場合は、2階の洋室を1階に移して平屋にする選択肢もあります。上下移動がなくなる一方、建物の外形が大きくなり、基礎と屋根の面積が増えるため、建築費や敷地内の配置への影響を確認する必要があります。
外からの出入口に土間収納を組み合わせる
デッキからの出入口の近くに土間収納を設ければ、作業着や長靴などを水廻りの手前で置いておけます。外での作業が多い暮らしでは検討したい組み合わせです。
この間取りが合う方
- 見晴らしのよい敷地で、景色を生かした住まいにしたい方
- 開放的なLDKの中に、落ち着ける小さな居場所もほしい方
- 子どもの遊び場や学び場を、キッチンの近くに設けたい方
- 外から戻ってすぐに手洗い・洗濯・入浴ができる動線がほしい方
- ご実家の近くで、ほどよい距離感を保って暮らしたい方
- 子ども部屋の数や使い方を将来決めたい方
この間取りが合わない可能性がある方
- 家の中の段差をできるだけなくしたい方
- 吹き抜けによる冷暖房効率への影響を避けたい方
- 2階の個室と1階のLDKの音を明確に分けたい方
- 基礎や形状をシンプルにして建築費を抑えたい方
まとめ
今回の住まいは、那須の見晴らしのよい敷地に計画した、延床35.93坪の2LDK(将来3LDK)+タタミコーナーの2階建てです。
方向ごとに景色の抜けを確認して窓を配置し、21帖のLDKと吹き抜けで「ひらける」空間をつくる一方、床を40cm下げた4帖のタタミコーナーで「こもれる」居場所を重ねています。玄関は北風を避けて奥まらせ、デッキから洗面・ランドリー・浴室へ直行できる動線は、将来酪農を継いでいく暮らしにも対応しやすい構成です。
吹き抜けの温熱計画、段差の安全性、窓の多さによる断熱とのバランスといった注意点を踏まえながら、開放とこもりのどちらも手放さない暮らしを目指した住まいです。
※本記事は一つの設計例です。敷地条件、法規、構造、周辺環境、家族の暮らし方により適切な計画は異なります。
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